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ここは、短い短いお話が並んでいく予定です。 思いついたことをそのまま書いていくので、ジャンルがごちゃごちゃです。 色々気をつけてくださいまし。
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生きてます。
大丈夫です。
さて、半年遅れのエイプリルフール企画。
公開です。
もう、これだけ遅れたら、あと半年伸ばして合わせたらいいじゃないとか声が聞こえそうだけど、気にしない。
ちょっと節々が筋肉痛だったりしますが、それも気にしない。
では、興味のある方のみ、続きからどうぞー。

『四月一日の君と僕』
 
時刻はちょうど昼時で。
彼はエスカレーターを下り、花やしきの看板を見るともなしに見た後、電光掲示板の前へと腕組みして立っていた。
彼は年季を感じさせるスラロープをゆったりと歩き、傾斜のきつい階段を確かめるように上ったところ、特急の利用状況の表示された電光掲示板の前、彼を見つけた。
「やぁ、日光」
「銀座線」
 
ちょうどいい、付き合え。
そう言われて付いたのは直ぐ近く。
『神谷バー』
一階はバーになっていて、二階で洋食が楽しめる。
昔からある、古きよき浅草の名店。
「どうも、一人で来るのに気後れしてな」
気後れ、とはあまり似つかわしくなく、それでも浅草をホームに持つ彼の同僚でなく自分と来てくれたことが少し嬉しくもあった。
「お前は慣れてそうだし」
「そうでもないよ」
誰かと連れ立つなど、あまりないのだ。
誘ってくるのも丸ノ内くらい。
「そうは見えない」
「そうかな」
僕は君の目にどう映っているのかな。
 
「チキンライスが食べたかったんだ」
そういう彼は少し照れたように、目線を逸らした。
意外な気がして、頬が緩んだ。
どうか、彼に気付かれませんように。
気分を害されることがありませんように。
「へぇ…、有名なの?」
「さぁな。けど、雑誌に載ってたから」
興味がある。彼に。
何故だろう。
自分でも解らないけれど。
訊いてみたいこともある。
少し怖くて、訊けないけれど。
「あぁ、伊勢崎には言わないでくれ、外食なんて贅沢なことするなっていつも言われてるんだ」
「ああ、だから」
僕はちょうど良かったんだね。
「だから?」
「ううん、僕も外食は久しぶりで嬉しいと思って」
だから、の説明にはならないな。
他の人に対するのならもっと巧くすりかえられそうなのに。
「そうか、なら良かった」
「良かったのは、僕のほうだよ」
本当は、僕は東武にとって、君にとって、邪魔だったはずなんだ。
僕がいなければ、東武も東京まで路線を延ばすはずだったのだから。
僕がいなければ、君は相互乗り入れなんてことをすることもなかったのだから。
もっと、日光まで、人を運べただろうに。
「そうなのか?」
許されなかったから、僕は君の隣に今いられる。
「うん、誘ってくれてありがとう」
今、いて良いと、言われたような気がして、嬉しいんだ。
「いや、別に…」
君は僕の気持ちなどわからないだろうけれど。
僕を否定しないでくれて、ありがとう。
「ご注文は?」
「あ、俺は」
「チキンライス二つ」
店員に頼む。
「別にお前まで合わせる必要なんてないだろ」
「僕も食べてみたくなって」
君が食べたがるチキンライスを。
君と一緒に。
 
壱番屋のお煎餅がおいしいとか、松屋のユニクロにはよく行くのだ、とか。
僕に対しては珍しく、彼は饒舌に語ってくれた。
「ユニクロって?」
そう尋ねたら、「知らないのか?」って目を丸くされた。
知らない、そう、答えたかった。
「名前は聞いたことあるよ」
そんな風に話す君は、話してくれる君を知らなくて、量産された洋服を安価で提供する店だと説明してくれる君がただ嬉しいから。
短い距離の道すがらが、とても惜しくて。
信号待ちの時間がもっと長くなればいいのにと思った。
「こっちはほんと、あったかいな」
「うん、ここ数日は特にね。日光のほうはあったかくないの?」
日光。
彼の辿り着く場所。
「昨日は雪が降った」
騙されて、いるのかな。
今日はエイプリル・フール。
「すごいね、さすがは日光。こっちは桜が満開だって言うのに、って言っても僕のところからは見えないけれどね」
人を幸せにする嘘をついていい日。
「ここら辺で見えるだろ」
ああ、でも、本当なんだ。
嘘みたいな本当を僕にくれたんだ。
「ああ、うん。綺麗だねぇ。上から見ると、もっと綺麗でしょう?」
「ああ、特等席だ」
自慢げに。事実、自慢なのだろう、彼が笑う。
僕には見ることの出来ない美しい桜を、上の景色を、君は誰と見ているんだろう。
考えている間に、信号は変わった。
 
「付き合わせて悪かったな」
別れ際、になるんだろうか。
もう?とか、まだ話したいとか、思う。
それはきっと僕だけの感情で。
「そんなことないよ」
少し、寂しい。
僕らの大元には同じ人がいるはずなのに。
あの人は、東武の人だったのだから。
地下鉄王と呼ばれるあの人も。
「そうか、ならよかった、まぁもうこんなこと」
ああ、そんな言葉の先は聞きたくないんだ。
僕は君が思うほど他人に合わせていないのだから。
「では次のときは松屋の中にしよう」
誘ってくれて、嬉しかったんだ。
「次?」
だから今度は僕から。
「ユニクロ、付き合ってくれるんでしょ」
きっと、君と行ったら楽しいと思う。
「何で俺が」
「教えてくれたのは日光でしょ。だったら、案内してくれるのも君であるべき」
「どういう理屈なんだか」
「いいじゃない」
理屈なんてどうでも。屁理屈で構わない。
「…、昼、お前が奢るんなら考える」
「別にいいけど…、またあそこ?」
おいしそうに食べる姿がまた見られるからそれはそれで歓迎だな。
「いや、あそこは気が済んだ」
「じゃあ?」
また、一緒にどこか行ってくれる?
伊勢崎線に見つからないように、二人で。
「日本で一番高い駅弁をご馳走してくれるのなら」
にやり、と笑って提案されたのは値段の高さで有名なお弁当。
「日光埋蔵金弁当…?あれって、器が高いだけじゃ」
「言うな」
「…いいよ、それもきっと楽しいと思う」
君となら。うん、それもいい。
日光の名物も食べられるんだ、話題に事欠かないだろう。
「…はぁ、冗談に本気で答えるなよ」
「冗談だったの?」
それは少し、残念だな。
面白そうだったのに。
「当たり前だ、そもそもあれは日光駅で、しかも予約しておかなきゃ買えない代物だっての。どうやってお前が買うんだよ」
日光までの、近くて遠い距離。
僕にはけして辿り着けない、その距離。
「某K姉妹はお取り寄せしてるから、大丈夫かなって」
僕には手が届かないと突き放されたよう、そう感じるのは卑屈すぎかな。
「とんだセレブ路線め…」
「あはは、それで、何食べる?」
何でもいい、また、君と語らいたいから。
君とのつながりを、諦めたくない。
「あれでいい」
「あれ?」
彼の指差す先には見慣れた立ち食い蕎麦屋がある。
「いつもいい匂いしてるんだけど、近すぎてなんか逆に利用することがなくてな」
「あぁ…、言われてみれば僕もだ」
 
「それじゃあ、また」
彼は上へ、僕は下へ。
それぞれの場所を進むから。
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